UI開発において制約は単なる障壁ではなく、効率と品質を向上させる重要な要素です。制約を想像的に活用して一定の枠組みを設けることで、無限の選択肢の中で迷うのではなく、優れたユーザーインターフェース(UI)を効率的に開発することができます。
この記事では、デザイン制約の効果や実践方法、具体的なワークフローを解説します。
- UI開発が直面する課題
- 「デザイン制約」が効率的なUI開発の鍵
- UIライブラリでデザイン制約を実現しよう
- デザインシステムで制約を体系化しよう
- デザイン制約を活用したUI開発ワークフロー
- デザイン制約が変えるUI開発
UI開発が直面する課題
使いづらいUIは生産性を低下させる
システム開発においてUI設計の重要性は年々高まっています。「使いづらいUI」は不便なだけでなく、作業効率の低下やヒューマンエラーの増加を招き、組織全体の生産性に直接的な影響を及ぼします。
しかし、システム開発では限られた時間とコストの中で優先順位付けが行われます。時間と人が不足する中では、インターフェースは「機能さえ動けば良い」という考え方が優先されがちで、UIの使いやすさは後回しにされがちです。この結果、業務システムは使いづらいUIの温床となり、大量のマニュアルで操作補足がされるという負の連鎖も起こっています。
デザイナー不在の開発チームが直面する問題
しかし、多くの開発チームでは、UI専任のデザイナーを配置する余裕がないという現実があります。このような環境では、開発者が個別に画面設計を行うことになり、結果として統一感のない不揃いなインターフェースが生まれてしまいます。
株式会社リコー様も、「ノーコードAI開発ツール」開発プロジェクトにおいて、UIの専任者は不在のまま開発をスタートした結果、開発者ごとにバラバラの画面デザインとなり、一貫性が欠如するという問題に直面されていました。
【▶️もっと詳しく】株式会社リコー | 「UI設計がチグハグになっていた」専任者なしの開発チームが円滑にノーコードAIツール開発を実現できたワケ
効率と品質を両立させるアプローチが必要
システム開発において、UIの効率的な開発と高品質の両立は大きな課題です。特にデザイナー不在の環境では、開発速度を維持しながら一貫性のあるUIを実現することはますます難しくなります。時間とコストの制約がある中で、機能実装を優先すると品質が犠牲になり、品質にこだわりすぎると納期に間に合わないというジレンマに陥ります。
UI開発においては、効率と品質をどう両立させるかというアプローチが重要なのです。
「デザイン制約」が効率的なUI開発の鍵
「制約」の概念と効果
一見すると「制約」は創造性を妨げるように思えますが、UI開発では逆に創造性を高める有用な方法となります。「デザイン制約」とは、限られた枠組みの中で選択肢を絞ることで、より効果的な判断を可能にする概念です。
1950年代から活用されてきた「グリッドシステム」はその代表例で、理解しやすい構成の効率的な作成を助けました。
近年、UI開発においてもこの概念は受け継がれており、視覚的な要素(色彩パレットやタイポグラフィ)だけでなく、Reactなどのフレームワークによるコンポーネント構造やコード実装パターンといった技術的側面にまで制約の範囲が広がっています。
これらの制約により開発者はデザインの決定に悩む時間が減り、本質的な問題解決に集中できます。結果として開発スピードも向上しますし、ユーザーにとってもマニュアル要らずの使いやすいインターフェースが実現します。UI開発チームがこの概念を活用することで、限られたリソースでも質の高いデザインを効率的に生み出せるのです。
無限の選択肢が生み出すエラー
UI開発において、無制限の選択肢は自由で想像的に思えますが、実際には決断の難しさや一貫性の欠如といった問題を引き起こします。例えば、ある担当者が開発したUIが、3年後に充分なドキュメントがないまま別の開発者へ引き継がれるとどうなるでしょうか。
基準の異なるUIが開発され、「はい」「いいえ」のボタン配置がシステム内で混在するなど、ちぐはぐなUIを生み出すことに。ユーザが操作を誤るなどのリスクが発生します。
UI開発にデザイン制約を取り入れよう
無限の選択肢は、専任のUIデザイナーが画面ごとにチェックを入れ、チューニングができる開発環境でないとデメリットを多く生み出してしまいます。
このような問題は、デザイン制約によって選択肢を絞ることで解決できます。
デザイン制約のメリット
- 意思決定の時間と労力の大幅に削減:
「このボタンの色は何色にすべきか」「このフォントサイズは何ポイントが適切か」といった細かな決断の繰り返しは、開発者の精神的負担となり、本来集中すべき問題解決から注意を逸らします。事前に定められた制約の中で作業することで、こうした判断に費やす時間を節約できます。 - チーム全体の生産性が向上:
共通のガイドラインに沿って開発することで、メンバー間のコミュニケーションコストが減少し、コードレビューも効率化されます。また、新しいメンバーがプロジェクトに参加した際の学習曲線も緩やかになります。 - ユーザー体験の一貫性を確保:
同じパターンが画面全体で繰り返し使用されることで、ユーザーは操作方法を一度学ぶだけで済み、システム全体を直感的に使いこなせるようになります。これは特に複雑な業務システムにおいて重要なメリットです。
デザイン制約は、限られたリソースを最も重要な問題解決に集中させることを可能にし、結果として質の高いUIをより効率的に生み出す環境を整えるのです。
効果的な制約を設定する主な手段として、UIライブラリの活用とデザインシステムの構築という二つのアプローチがあります。
UIライブラリでデザイン制約を実現しよう
UIライブラリは、デザイン制約を具体的に実現する強力なツールです。事前に設計された一連のコンポーネントを提供することで、UI開発における選択肢を絞り、質の高いインターフェースを効率的に構築できます。
UIライブラリの導入メリット
- 開発時間の大幅な短縮:
高品質なコンポーネントが既に用意されているため、一からUIを設計・実装する必要がありません。ボタン、フォーム、データテーブルなどの一般的な要素を即座に利用でき、開発工数を1/3に削減できるケースもあります。また、ライブラリのコンポーネントはすでに最適化されているため、パフォーマンスチューニングの時間も節約できます。 - 一貫性と品質の保証:
ライブラリのコンポーネントは同じデザイン原則に基づいて作られているため、アプリケーション全体で一貫したルックアンドフィールを実現できます。個々の開発者のスキルや好みに依存せず、均一な品質を担保できます。またアクセシビリティ(Web Content Accessibility Guidelines)やクロスデバイス、マルチブラウザなどの高度な要件も標準で満たしていることが多く、品質向上に貢献します。 - メンテナンスとスケーラビリティの向上:
コードの重複が減少し、変更や修正が一箇所で完結するようになります。新機能の追加も既存のコンポーネントを組み合わせるだけで実現できるため、アプリケーション機能の追加がスムーズです。また、チーム内での知識共有やコードレビューも効率化され、開発者の入れ替わりがあっても一貫した開発を継続できます。
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ライブラリ選定の基準と導入ステップ
選定にあたっては、単に人気や知名度だけでなく、プロジェクトの具体的な要件に照らし合わせた評価が必要です。選定にあたっては、以下が主要な基準となります。
- 機能の充実度: 業務システムで必要となるデータグリッド、チャート、フォーム要素などの高度なコンポーネントがすぐに利用可能な状態で提供されているか。無償ライブラリでは対応できない高度な要件も満たせるか。
- 部品の共通化とカスタマイズのバランス: すでに共通化が考慮されたコンポーネントセットで設計工数を削減できる一方、プロジェクト固有の要件に対応できる柔軟なスタイルや動作の調整が可能か。
- サポート体制: 豊富なドキュメントや専用サポートにより、問題発生時に迅速な解決が可能か。特に重要なプロジェクトでは、長期的な保守を考慮したサポート体制が不可欠。
導入ステップとしては、要件の明確化、複数ライブラリの比較評価、プロトタイプ作成によるフィット感の確認、そしてチーム全体への教育とガイドライン策定という流れが効果的です。有償、無償どちらのUIライブラリも提供されています。
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デザインシステムで制約を体系化しよう
デザインシステムの基本要素と構成方法
UIライブラリが提供する個々のコンポーネントはを統合し体系化するためには、デザインシステムという上位概念があるとより統一しやすいです。色彩・タイポグラフィ・スペーシング・レイアウトルールに加えて、コンポーネントの状態管理・データの取得・表示パターン・インタラクションの一貫性・パフォーマンス基準といった実装面の制約も体系化します。
視覚的な一貫性だけでなく、コードの構造化やパフォーマンス基準が体系化されていることがとても重要です。こうしてUI開発に必要な実装の観点も含めてデザインシステムとして統一することで開発プロセスの標準化・テスト手法の統一にも繋がり、UI開発がより効率化します。
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デザインシステムはデザイナー不在でもできる?
デザイナー不在でもデザインシステムは作れます。必ずしもデザイナーだけで作れば良いものではありません。
デザインシステムというと視覚表現のガイドラインであると想像されがちですが、開発者観点で構築する場合は実装の効率性や再利用性といった側面が強化されるため、UIの開発といった全体プロセスを考慮するとより効率的です。
重要なのは、見た目の一貫性だけでなく、コンポーネントの構造、状態管理、データ連携などの実装プロセスまで含めて体系化することです。この包括的なアプローチにより、デザイナー不在でも質の高いUIを効率的に開発・維持できる基盤を築くことができます。
App Builderは、画面上でUIデザインを設計することで簡易なデザインシステムが出来上がる「UIデザイン・開発の統合ツール」です。デザイナーが居ない、または専任でデザイナーが時間を使えないがデザインシステムを低コストで実現したい場合におすすめです。
デザイン制約を活用したUI開発ワークフロー
UI開発の効率を品質を高める手法として、まずはUIライブラリによってデザイン制約を実現し、実装にかかる時間を短縮しながら高品質なUI開発を実現することがおすすめです。
その上でUIライブラリとデザインシステムを統合し、安定して高品質なUIを生産できる仕組みを作ることがおすすめです。いきなり完成度の高いデザインシステムを構築しようとするのではなく、まずはデザインシステムに相当する仕組みを構築できるツールを導入するのがおすすめです。
このような制約と体系化を実現できれば、テストの自動化やAIを利用した更なる効率化にも足を踏み入れることができます。
デザイン制約が変えるUI開発
UI開発においてデザイン制約の考え方を取り入れることは、単に開発効率を上げるだけではなく、対応できる開発者を増やす、組織の対応領域を広げるなど様々な効果があります。
制約を枠組みとして活用することで、開発者はデザインの細かな決断に悩む時間を減らし、ユーザー体験の向上という本質的な課題に集中できるようになります。UIライブラリやデザインシステムという具体的なツールと方法論を通じて、組織はデザイナー不在でも一貫性のある高品質なインターフェースを効率的に構築できます。
無限の選択肢の中で迷うのではなく、適切な制約の中で創造性を発揮し、UI開発とユーザ満足の双方に価値をもたらすアプローチとなるでしょう。
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